新株発行(増資)の株式引受けと利益相反


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取締役による募集株式の引受けが利益相反取引に該当するかについては、判例や先例でも明確にはなっていないようですが、法務局の商業登記の実務の取扱いでは、募集株式の発行(増資)の登記申請書には、利益相反取引の承認に関する議事録の添付は要しないとされています。

募集株式を発行するときは、株主総会の特別決議で、募集株式の払込金額その他の募集事項は発行ごとに均等に定めなければならないとされているので(会社法第199条)、新株を引き受ける者が誰であるかによって新株を発行する会社が利益を受けたり、不利益を受けたりすることはないからです。

ただし、取締役会設置会社で、割当先の決定や総数引受契約を取締役会で承認する際は、決議の公正を担保するため、株式を引受ける取締役が特別利害関係人に該当するかどうかの検討は別問題です。払込金額については株主総会で決議していても、誰に割り当てるかまでは決議していないからです。

自社の取締役に株式を割り当てる場合
第三者割当ての方法で株式を自社の取締役に割り当てることは、利益相反取引に該当します(会社法356条1項)。利益相反取引の承認は次の機関で行います。
(1) 取締役会設置会社の場合
取締役会の決議を要し、利益相反取引となる取締役は、自己に割当てをする決議に加わることができません(会社法369条2項)。

(2) 取締役会設置会社でない株式会社の場合
株主総会の普通決議を要し、利益相反取引となる取締役が株主であるときは、その者は株主として議決権を行使できます。


A株式会社の新株発行に際して、B株式会社が株式の引受けをする場合において、A株式会社とB株式会社の代表取締役が同一人甲であるときは、前記のとおり、B株式会社に対する株式の割当てはA株式会社にとって利益相反取引とはなりませんが、割当てられるB株式会社にとっては利益相反取引に当たり、B株式会社において株主総会(取締役会設置会社においては、取締役会)の承認を得る必要があると解されています。

ただし、A株式会社の募集株式発行の登記申請においては、他社であるB株式会社で利益相反取引の承認があったかどうかは問われませんし、B株式会社の議事録を添付書面として求める法令上の根拠が見当たらないので、B株式会社の議事録の添付は要しないとされています。


新株発行と利益相反取引に関する先例・判例


① 甲会社の募集株式の募集に際し、甲会社と代表取締役を同じくする乙会社が募集株式を引き受ける場合に、募集株式の募集方法が、①公募による場合、②株主割当による場合、③第三者割当による場合のいずれであっても、引き受け会社である乙会社の承認機関(取締役会設置会社では取締役会、取締役会非設置会社では株主総会)の承認が必要である。なお、募集株式の発行による変更登記の申請書には、承認機関が承認した議事録の添付を要しない(登先293・138)。

② 取締役会設置会社である甲会社の代表取締役Aが、取締役会設置会社である乙会社の取締役でもあるときに、乙会社の募集株式の募集につき、Aが甲会社名義で乙会社に不動産を現物出資して乙会社の発行する募集株式を引き受ける行為は、当該不動産の現物出資による所有権移転登記の添付情報として、当該取引を承認した甲会社の取締役会議事録を提供する。乙会社については、現物出資を受け入れるに当たり、既に株主総会の決議を経ているため、当該取引についての取締役会の承認を要しない(登研755・171)。

③ 増資新株の引受並びにその引受株式に対する現物出資の履行行為については右商法265条(会社法356条①二、365条①)の適用はないものと解するのが相当である。けだし、現物出資の場合は、出資者の氏名・目的物・その価格及び出資者に与うべき株式の数を増資に関する株主総会で決議すべきものであるべきであり、すでに総会の決議によってこの様なことが定められた以上、会社の利益保護のために設けられた商法第265条の承認の手続を重ねて履む必要はないものと解するのが相当だからである(福岡高判昭和30年10月12日)。


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