役員の婚姻前の旧姓を併記したい場合
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役員の氏名に婚姻前の氏を併記して記録することができるようになりました。 |
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民法750条には、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」とあり、日本では夫婦別姓を認めていません。
その結果、乙野花子(旧姓)が結婚して氏名を甲野花子に変更した途端に、「甲野花子」で仕事をしなければならないとすれば、支障が生じることもあるため、多くの場合、仕事で使う氏名(名刺)は「乙野花子」としたままにしますが、この者が取締役や監査役等の役員に就任し、あるいは、役員である者が結婚により氏名を変更した場合(変更しなければならない。)に、登記記録が戸籍上の氏名である「甲野花子」でしか受け付けないとすると会社の業務に不都合が生じることもあります。
また、役員等は戸籍上の氏で登記しなければならないため、取引先等第三者が当該会社の登記事項証明書を見たときに、仕事で婚姻前の氏(旧姓)を使用している役員が当該会社の登記簿上の役員か否か確認することができず、取引等に支障が出るおそれがあります。
そこで、旧姓を併記した「甲野花子(乙野花子)」を認めることにしました(商業登記規則81条の2)。ただし、旧姓の併記を希望した場合に限られます。(平成27年2月27日(金)から)
登記事項証明書の役員区に婚姻後の氏に加え、婚姻前の氏も記録することによって、当該婚姻前の氏が取引の安全のための有益な情報になり、業務執行の円滑化に貢献するものと考えられるからです。
なお、この取り扱いは行政サービスの一環であり、本来の登記の申請には該当しません。
また、養子縁組による氏の変更については規定されていないので、養子縁組により氏を改めた者は、縁組前の氏の記録の申出をすることはできないとされています。
同時に婚姻前の氏の記録の申出をすることができる登記申請(株式会社) |
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〇設立の登記の申請
〇清算人の登記の申請
〇役員(取締役、監査役、執行役、会計参与若しくは会計監査人)又は清算人の就任による変更の登記の申請
〇役員又は清算人の氏の変更の登記の申請
※ なお、株式会社(有限会社)の役員のほか、持分会社の社員、一般社団法人、一般財団法人若しくはその他の法人の役員又はLPS若しくはLLPの組合員等についても、同様の改正が行われています。
したがって、取締役に就任し、その旨の就任による変更登記がなされた取締役甲野花子が、後日、婚姻前の氏の記録の申出だけをすることはできません。
これは、「設立の登記、清算人の登記、役員(取締役、監査役、執行役、会計参与又は会計監査人をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の就任による変更の登記又は役員若しくは清算人の氏の変更の登記の申請をする者は、婚姻により氏を改めた役員又は清算人であつて、その申請により登記簿に氏名を記録すべきものにつき、婚姻前の氏(記録すべき氏と同一であるときを除く。)をも記録するよう申し出ることができる。(商業登記規則第81条の2)」と規定されているためです。
すなわち、上記の登記申請と同時にしなければならず、後日の申出を可能とする旨の規定がないためです。
婚姻前の氏の記録の申出の方法等 |
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設立の登記、清算人の登記又は役員変更等の登記を申請する者が、登記の申請書に婚姻前の氏を記録すべき役員等の氏名及びその婚姻前の氏を記載するとともに、当該婚姻前の氏についての証明書を添付してしなければなりません。
婚姻前の氏についての証明書に該当するものの例
① 戸籍謄(抄)本又は戸籍事項証明書(婚姻に関する事項の記載があるもの)
② 住民票の写し又は住民票記載事項証明書(婚姻により氏が改められた旨及び婚姻前の氏の記載があるもの)
これに対して、パスポートや運転免許証のコピーについては、婚姻前の氏を証する書面として取り扱うことはできません。これらについては、婚姻前の氏が記載されているかどうかが明らかではないからです。
委任状・登記申請書の記載方法 |
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委任状でも登記申請書でも、「登記の申請」と「旧姓併記の申出」の二つを明確に記載します。言い換えれば、「申請書」と「申出書」の二つを1枚に記載するだけです。登記すべき事項も、「氏名」の欄に「甲野花子(乙野花子)」でよいとされています。
(1)委任状の委任事項の記載例(原本還付事項等は省略)
・①株式会社設立登記で、甲野花子(旧姓:乙野)が代表取締役の場合
・ 1.当会社の設立登記の申請に関する一切の件
・ 1.取締役及び代表取締役甲野花子の婚姻前の氏の記録の申出に関する一切の件
・②甲野花子(旧姓:乙野)が取締役に就任した場合
・ 1.取締役の変更登記の申請に関する一切の件
・ 1.取締役甲野花子の婚姻前の氏の記録の申出に関する一切の件
・③取締役乙野花子が婚姻し、氏を甲野に変更した場合
・ 1.取締役の氏変更登記の申請に関する一切の件
・ 1.取締役甲野花子の婚姻前の氏の記録の申出に関する一切の件
(2)登記申請書
・登記申請書の最後を「上記のとおり登記を申請する。」としますが、その下に、次のとおり申出事項を記載します。
・下記の者につき、婚姻前の氏を記録するよう申し出ます。 なお、婚姻前の氏を証する書面として、 □戸籍の全部事項証明書・個人事項証明書・一部事項証明書、戸籍謄本・抄本 □その他( ) を添付します。 ・ 記 ・婚姻前の氏をも記録する者の資格及び氏名 ・ 資格 取締役及び代表取締役 ・ 氏名 甲野花子 ・記録すべき婚姻前の氏 乙野 |
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(3)別紙 登記すべき事項
・①取締役1名のみの株式会社設立登記の「役員に関する事項」欄
・「役員に関する事項」
・「資格」取締役
・「氏名」甲野花子(乙野花子)
・「役員に関する事項」
・「資格」代表取締役
・「住所」東京都新宿区○○一丁目2番3号
・「氏名」甲野花子(乙野花子)
・②取締役の就任による変更登記の場合
・「役員に関する事項」
・「資格」取締役
・「氏名」甲野花子(乙野花子)
・「原因年月日」平成31年3月1日就任
・③取締役の婚姻による氏変更登記の場合
・「役員に関する事項」
・「資格」取締役
・「氏名」甲野花子(乙野花子)
・「原因年月日」平成31年3月1日乙野花子の氏変更
登記官による登記記録の処理 |
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設立の登記、清算人の登記又は役員変更等の登記の申請において婚姻前の氏をも記録してほしい旨の申出があった場合には、登記官は、これらの登記をするときに、婚姻前の氏を記録すべき役員等の氏名とともに、その申出に係る婚姻前の氏を登記記録に記録するものとされました。
この場合にする婚姻前の氏の記録については、当該役員等の氏名に続けて、括弧書きでその婚姻前の氏及びその名をも記録するものとし、婚姻前の氏をも記録すべき役員等が代表取締役、代表執行役又は代表清算人であるときは、当該代表取締役、代表執行役又は代表清算人の氏名についても、続けて、括弧書きでその婚姻前の氏及びその名をも記録するものとされました。
なお、登記記録に婚姻前の氏をも記録された役員等の再任による変更の登記又はその氏の変更の登記をする場合には、当該登記の申請人から引き続き当該婚姻前の氏の記録を希望する旨の申出がなくても、当該婚姻前の氏と登記簿に記録すべき役員等の氏とが同一である場合を除き、当該役員等の氏名とともに当該婚姻前の氏及びその名をも記録しなければなりません。
つまり、いったん婚姻後の氏と婚姻前の氏が併記された後は、婚姻前の氏の記録を希望しない旨の申出がない限り、特に婚姻前の氏の記録を希望する旨の申出をしなくても、婚姻後の氏と婚姻前の氏が併記された登記がされ続けることになります。
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