遺産分割による相続登記
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相続登記のほとんどは、遺産分割協議に基づくものです。相続人間に争いがない場合には、最も簡単に相続人を確定する方法の一つです。
遺産分割協議の方法 |
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法律で法定相続分は定められていますが、法定相続分とは関係なく誰が何を相続するかの遺産の分け方を決める相続人全員による話し合いを遺産分割協議といいます。そして、その話し合いの結果を遺産分割協議書にして、その協議書を添付して相続登記をするのが一般的です。
協議による分割は、内容的にはどのような分割がされても自由です。たとえば、父親名義の土地を長男1人に相続させたい場合には、土地については長男が相続する、と決めれば足り、他の子は何も相続しない旨を遺産分割協議書に記載する必要はありません。
遺産分割協議は全員参加が必要 |
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遺産分割協議には共同相続人全員の参加が必要です。一部の相続人を除外してなされた遺産分割協議は無効です。
遺産分割協議の当事者には、相続人のほか次の者も含まれます。
① 包括受遺者は相続人と同一資格で遺産分割協議に参加します(民法990条)。
② 相続分の譲受人も遺産分割協議に参加します(民法905条参照)。
③ 家庭裁判所の許可を得た不在者財産管理人も遺産分割協議に参加します。
④ 遺言執行者(民法1012条)。
一部分割 |
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① 当事者の協議による一部分割
共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の一部について分割することができます(民法907条1項)。
一部分割については、旧法の頃より、一定の要件の下で一部分割が許されるという見解が一般的でしたが、いかなる場合に一部分割が許容されているか必ずしも明確ではなかったところ、民法907条の改正により、一部分割について明文の規定が設けられました。
遺産の一部分割が明文化されたことにより、全ての遺産を対象にすることなく、遺産の一部のみの遺産分割ができることが明らかになりました。遺産の範囲について争いがあり遺産分割が長期化するような場合においては、遺産の範囲について争いのない遺産のみを先に分割することが可能になりました。
また、最高裁大法廷平成28年12月19日決定(民集70・8・2121)は、預貯金債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になると判断しましたので、遺産分割協議が早期に成立しないと預貯金が解約できず、残された相続人の生活に支障が出てくることも考えられます。このような場合には一部の遺産を先行して分割することは有益であるといえるでしょう。
② 家庭裁判所に対する一部分割の請求
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項)。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りではありません(同条2項ただし書)。
なお、一部分割以外の改正相続法による遺産分割に関する見直しについては、遺産分割等に関する見直し 2019年7月1日施行 のページをご参照ください。
相続人が一堂に会せない場合 |
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遺産分割協議は、相続人全員が一堂に会して協議をするのが望ましいのですが、遺産分割協議を成立させるために、一堂に会さなくても、相続人の一人が作成した遺産分割協議書を持ち回りで全員が承認する方法でもかまいません。また、同一内容の書面を相続人分作成して、それに各自署名押印してもらい、それらを全部合わせて1通の遺産分割協議書とすることも可能です。
遺産分割の効力 |
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遺産分割の効果は相続の開始時にさかのぼります。すなわち、分割によって取得した権利は、相続の開始の時からその相続人に帰属していたことになります(民法909条)。ただし、第三者の権利を害することはできないとされています。
養子に行った子がいる場合 |
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養子に行っても、実親の相続権は失いませんので、養子に行った子も遺産分割協議に参加しなければなりません。ただし、特別養子は実親の相続権を失います(民法817条の9)ので、遺産分割協議には参加できません。
結婚した娘は |
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「結婚した娘も相続権があるのか」という疑問が生じるかもしれませんが、結婚して家を出た子にも相続権はありますので、遺産分割協議に参加しなければなりません。
話し合いがまとまらない場合は、調停・審判 |
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遺産分割は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって決めるのが原則です。したがって、一人でも分割に応じない相続人がいれば、有効な遺産分割協議はできません。話し合いによる解決ができない場合には、裁判所における手続きに持ち込まれることになります。これを扱うのは家庭裁判所です。遺産分割の裁判手続としては調停と審判があります。
ここではまず遺産分割調停という手続きがとられます。
申立書
遺産分割調停の申立書は、家庭裁判所の窓口でもらうことができます。また、裁判所のホームページからダウンロードすることもできます。
裁判所 遺産分割調停
遺産分割調停は、家庭裁判所から選任された調停委員(または裁判官)が間に入って話し合いで解決を図るものです。ここで話がまとまれば、その遺産分割案が調停調書に記載され、この調停調書をもとに、預貯金や不動産の名義変更手続きを進めることが出来ます。
調停は、あくまでも相続人の話し合いによる解決をはかることを目的としている制度であり、調停委員の分割案や助言に強制力はありません。したがって、共同相続人のうち誰か1人でも遺産分割案に応じない者がいれば調停は不成立となります。
調停が不成立になった場合には、遺産分割審判に自動的に移行されますので、別途、審判の申立てをする必要はありません。
審判は、家庭裁判所でおこなう一種の裁判と考えてよいでしょう。ただ、通常の裁判とは様式が少し異なり、問題の相続財産について審判官が職権で様々な調査をしたうえで、最終的な決定を下すことになります。
もしこれに対して不服がある場合は、審判書を受け取ってから2週間以内であれば、高等裁判所に不服申立てをすることができます。この申立てがなければ、審判は通常の裁判の確定判決と同様の効力を生じます。
遺産分割協議書 見本 |
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・ ・ ・ ・ ・ ・ 遺産分割協議書 ・ (注1)・ ・被相続人大山太郎(本籍 東京都中央区○○二丁目45番地)は平成○○年 ○○月○○日死亡したので、その相続人大山花子、大山一郎、大山二郎は、被 相続人の遺産につき次のとおりに分割することを協議した。 ・ 1 大山花子は、次の遺産を取得する。 2 大山一郎は、次の遺産を取得する。 3 大山二郎は、次の遺産を取得する。 ・以上のとおり分割協議が成立したことを証するため、相続人全員が署名押印 ・ 平成○〇年○○月○○日 ・ 東京都中央区○○二丁目7番4号 |
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(注1)誰の遺産分割協議なのかを明らかにするために、被相続人を本籍または住所
・ 等で特定する必要があります。
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